「仲介者」としての人類学者
−アメリカ人類学会年次大会・「人類学と環境」分科会からの報告


 
2000年11月15日から19日の期間に合衆国のサンフランシスコで開催されたアメリカ人類学会(American Anthropological Association)第99回年次大会に出席した。この大会は非常に大規模な学術集会で,今回の場合,正規の参加登録者だけで5千4百名を越えた。研究発表の数も膨大で,5日間の開催期間中700近いセッションが開かれ,じつに2千を超える研究報告が発表された。すべての発表やセッションは申請時に35ある学会分科会のいずれかに振り分けられ,同じ分科会のセッションの時間帯がなるべく重ならないようにプログラムが組まれる。ここでは,集中的に聴講した「人類学と環境分科会」(Anthropology & Environment Section)のセッションについて報告したい。ただし,この分科会だけでも13のセッション(他の分科会との共催を含む)が開かれ,104もの発表がおこなわれたので,とうてい発表を逐一紹介することはできない。そこで,最も報告が多かった自然保護活動と現地社会の関係を取り扱ったセッションをとりあげて,そこでうかがうことのできたアメリカ人類学界の研究動向や関心のありかについて記述することにしたい。

 多数の報告で共通して指摘されていたことのひとつは,従来の自然保護活動は保全すべき自然の定義を狭めすぎているという点である。たとえば,「景観−解釈,資源,変化」1)と題されたセッションのいくつかの報告では,文化/自然という西欧的二分法に依拠しない現地社会の自然観を考慮した場合,あるいは環境の持続的利用という有用性の尺度からみて,現地住民による自然の改変は必ずしも排除すべきものではないという指摘があった。つまり,人為を排した「原生」を保護するという指針は,現地の文化的アイデンティティや経済的利害を損ねて反発を招き,かえって自然保護活動の存立を危うくする。人間活動を許容するような自然保護概念の組み換えが必要であることは狩猟採集のような非集約的な生業を営む社会とその環境を事例としてすでに指摘されているが,今回の諸報告で特徴的であったのは,現金収入を得るために集中的に環境を改変しているような社会まで視野に入れて,住民の文化的・経済的条件に充分配慮した地域環境保全の実践的意義が強調されたという点であった。

 もう一つ,いくつかの発表で繰り返し報告されていたのは,右の指摘とも関わるが,現地住民が生物多様性の守護者であるという「生態学的に高貴な野蛮人」モデルは,市場経済の浸透などによる文化変容の有無や程度に関わりなくそもそも一種の幻想であり,現地住民の生業活動や価値観は従来型の自然保護活動との間に軋轢を生む潜在的可能性をつねに持っているという認識である。「保護の人類学−地域参加に対する反発を越えて」2),「先住民,先住権運動家,環境保護主義者と人権−両立と非両立,環境と擁護の人類学」3)と題された二つのセッションでは,環境政策や自然保護団体と現地住民の対立についてラフな形ではあるが世界各地のいくつかの具体的事例が報告された。

 さらに以上の二つの認識を踏まえたうえで,これらのセッションでは地域住民と環境保全プロジェクトを媒介する人類学の役割について次々と報告があり,また活発な討論がおこなわれた。報告や議論を要約すれば,地域住民の協力と参加を得ようとして失敗した自然保護プロジェクトの「敗因」は現地住民の生活文化や政治経済的要求の過度の単純化や性急な保護活動の押しつけにあり,環境と人間社会の相互作用を調べあげる環境人類学者は,政策立案者,自然保護団体,生物学者と現地住民との間の交渉の「立会人」として決定的に重要な役割を果たしうるし,また果たすことが必要である。また,この点で,環境人類学はマイノリティである現地住民の権利要求を外部の政治社会状況に仲介する「擁護の人類学」(Advocacy Anthropology)の側面を持つことになる。さらに,「意図的な怠慢?−環境人類学の公的側面」4)という挑発的なタイトルのセッションでは,環境人類学者がより直接的に環境政策立案などの政治プロセスに参画する必要性と重要性が論じられていた。

 以上の人類学の実践的課題をとりあつかったセッションの発表会場はいずれも多数の立見が出るほどの盛況で,とりわけ大学院生など若い世代の聴衆が熱心に発表に聞き入っていたのが印象的であった。発表の過半は日本では環境社会学でとりあげられることの多い社会問題的なトピックを取り扱った事例報告で占められ,なかには生々しいと思えるような政治的な報告もあって,応用人類学的な色彩の薄い日本の生態人類学に慣れ親しんでいる私は戸惑いをおぼえることもあった。しかし,今回の大会を見る限り,報告事例の豊富さ,会場の盛況ぶり,討論の活発さなどから,環境保護がきわめて高い実践的関心をともなってアメリカの人類学界の中心的課題の一つとなっていることはまちがいない。


AAAmeetings2000_A&Emeeting

人類学と環境分科会(Anthropology and Environment Section)総





1) "Landscapes: Interpretations, Resources, and Change," Chair: Ross Sackett (U of Memphis).
2) "Conservation Anthropology: Beyond the Backlash against Local Participation," Organizer : Flora Lu (Stanford U).
3) "Indigenes, Indigenists, Environmentalists, and Human Rights: Compatibilities and  Incompatibilities, Environmental and Advocacy Anthropology"(Committee for Human Rights との共催), Organizer: Leslie E. Sponsel (Hawaii-Honolulu U).
4) "Conscious Oversight? The Public Face of Environmental Anthropology"(National Association for the Practice of Anthropology, Public Policy Committeeとの共催), Organizer: Pamela J. Puntenney (Environment & Human Systems Management).